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『金の草履』  (2)




夜のとばりが落ち始める頃、小さな非難壕の中で生ぬるい風が動きだす。


 ここを仮の宿として北を目指す人々が出発の身支度を整え始めると、明るい間、地を這うようによどんでいた空気も動き始める。じっとりと噴き出す汗がしたたる音さえ聞こえてきそうな空間で、壕の中でちぢこまっていた人々がそれぞれの単位にまとまって出ていく。


 単純に、窮屈に縮こまっていた空間から解放されるという明るさなど、ありはしない。あてのない旅を続ける人々は、明日への命をつなぐため、それぞれが真剣な想いで夜の闇の中に出ていこうとしている。

 行脚に向かう修行僧のような緊張感と、やっと手足を自由に動かせるというわずかな開放感だけが、まだ座り込んでいる麻子にも伝わってきた。

 太陽の眩しさが姿を隠し、放熱線が半円形を描いて消えた。あとに残った闇夜が、人々を吸い込むように壕の外に待ち構えている。

 

「姉さん、まだここにいるの?」


 小柄な年配の女性が壕の奥から這い出しながら、麻子に声をかけた。智子よりもう少し年かさの女の子を連れている。


 「あ、はあ。もう行きます。」


 おばさんはモンペについた土埃を右手で払いながら、


 「あんた、北に親戚でもいるの?見たところ、連れはいないようだけど。」


 おばさんは智子と元の顔を眺めながら、前歯の欠けた口を大きく開けてにっと笑った。


 おばさんのつやつやと黒光りした顔はこの非常時に似合わないほどふっくらとしていた。智子はおずおずと後ずさりして、麻子の後に隠れてしまった。元は珍しそうにおばさんの顔をじっと見ている。


 「坊や、名前はなんて言うの?」


 問われても、元はおばさんの目をじーっとのぞきこむだけで答えない。


 「あれまあ、そんなにあたしの顔が珍しいかね。そうね、そうね。」


 にっこり笑って元の頭をなでた。


 元は人なつこい子だった。じっと人の動向を観察する癖があるのは智子と同じだったが、
他人に対しての境界線をはっきりと持っており、その線からこちら側に招き入れてもいい人間か瞬時に判断した。
  そして、招待状を渡してもいい人物にはすぐに打ち解けていった。

 
 元は小柄なテルおばさんに笑顔を見せた。智子は弟の笑顔に安堵の色を浮かべたが、麻子の背中にしがみついたまま動かない。






| 『金の草履』 | 00:05 | comments(4) | - | |
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| - | 00:05 | - | - | |

かおりさんと同じに
金の草鞋と勘違いした私です。
我が家がそれなもので・・・
短編小説続きが楽しみです。
| kokeobasan | 2010/08/03 6:19 PM |

わ、続きが楽しみです。
どうなるのかな・・・
| まつぼっくり | 2010/08/03 10:49 PM |

kokeさま

わ!ご主人、金の草鞋を履いてらしたんですね

麻子の旅路に、しばらくお付き合いいただければ、と思います
| PEAR | 2010/08/04 12:12 AM |

まつぼっくりさん

いつもありがとうございます
主人公たちをしばらく見守ってくださいね
| PEAR | 2010/08/04 12:14 AM |












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