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『金の草履』  (10)



Photo by  rose bud


麻子たちの生きる旅は続いた。
 
 夕闇が迫ると食べるものを探して、ときには百合子を背中からおろして智子に預け、こっそり人の畑に忍んでいく日もあった。


 「おい!おまえ!ナーファンチュだな!」


 南からの避難民が畑を荒らすようになって、見張りを立てる村もあった。
この警戒網に引っ掛かり、切れた唇から血を流し、顔を赤く腫らして戻る日もあった。

「かあちゃん。血がでてるよっ。」
 元が麻子に飛びついていく。智子が心配そうなまなざしで手ぬぐいを母に差し出す。
 麻子は元を抱きしめて
 「かあちゃん、つまづいて転んでしまったさぁ。」
 「なんでもないよ、大丈夫。」
 麻子の口癖になった。

 麻子は野猿になり、子猿たちの口に入るものを探し、野山を這いずり回った。その攻防とて麻子には苦痛ではなくなった。私は猿だもの。生きていくためには盗るしかないときだってあるんだ。

 



 低く垂れこめた厚い雲の間から、ゴロゴロゴロと雷鳴が聞こえた。ピカッ、ピカッと暗い空に時折稲光が走る。


 深い山の中に雨の匂いが満ちた。
 雨は土に滲み込み黒々と匂い立ち、ますます強くなっていく。乾いた木の皮に縦模様を描いていた雨足がみるみる激しくなり、麻子と子供たちを濡らした。

 森の木々を強い雨が打ちつけ、肉厚な葉がばらばらばらと音を立てた。

少しでも雨をよけられるような場所を探して、麻子たちは入り組んだ森にさまよいこんだ。


 「かあちゃん、あっち!」


 智子が指し示す方向に、ひときわ大きな木が枝葉を広げて四人を迎えるように立っていた。その木の根元は複数の幹が絡まるように重なり合っており、その隙間に木の室がぽっかりと姿を現した。


 急いで室に逃げ込み、濡れたねんねこから百合子を下ろした。ずぶ濡れの服を脱がせ、絞った手ぬぐいで子供たちの濡れた体を拭いていく。


 室の中は案外湿り気もなく、広がりがあった。乾いた場所に親子でぴったりと寄り添った。麻子の裸の胸に百合子が肌を寄せて温もりが戻った。小さな百合子の心臓の音が麻子にトクトクトク・・と響く。


 森のどこかで花が咲いているのか、雨に打たれて花びらが震えて、かすかに甘い香りが麻子たちの元に届いた。

 

二昼夜、この深い森の中の室で雨をやり過ごした。

 大きな木の股の中は安らぎの宿となった。室の入口には苔むした岩が二つほど並んでいて、この雨でぬめりのある光沢を見せている。まるで緑色の絨毯に覆われているようだ。
 室の中に雨が跳ね返らないように、ちょうど屏風のような役割を果たしており、表から目立たないような造りになっていた。

 だれにも見つからないこの宿で、少しだけでいい、ゆっくり眠ろう。


 室の中で一か所、ぴちゅん・・、ぴちゅんと雨水を滴らせている場所があった。智子と元は落ちてくる水滴を代わる代わる口を大きく開けて受け、時折顔を濡らしては面白そうに笑った。


 子供たちに笑う力がまだ残っている。ああ、よかった。
 テルと愛子はどうしているだろう。
いつまでこの逃避行は続くのだろう。どこまで行けばいいのだろう。

 どっと疲れを覚えて、麻子は深い眠りの淵に沈んでいった。

 


 





| 『金の草履』 | 15:14 | comments(2) | - | |
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| - | 15:14 | - | - | |

お母さんといっしょだと力が出てくるのが子どもなんでしょうね。
自然がこの親子にやさしかったのが嬉しいです。
| まつぼっくり | 2010/08/11 8:46 PM |

まつぼっくりさん

悪天候のときなど、どのように過ごしたのでしょうね
必死に生き抜いた方々がいたから、今自分もここにこうしているんだな、と改めて思います
| PEAR | 2010/08/12 6:52 PM |












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